ある日、息子が虫になりました。
ある日、ぼくは虫になりました。
それでも私は、子どもを愛せるのでしょうか―
「人間に向いてない」概要
著者:黒澤いづみ
息子の優一がニートになってしまった主婦の美晴。
ある日、息子が奇妙な虫に変身してしまった。
全国でニートの子たちが異形化する現象が起こり社会問題となる。
とうとう国は異形化した時点で死んだものとして取り扱う事に。
もう死んだのだからと生きている子供を殺してしまう親、それでも子供だとそのまま為すすべもなく育てる親。
優一は死んだんだ、さっさとその虫を殺せという夫と、それを拒否する美晴。
そして美晴は異形化した子供を持つ親の会「みずたまの会」に入会する。
登場人物
田無美晴
54歳主婦。夫と息子の3人暮らし。
少々人見知りで、夫の実家とは折り合いが悪い。
田無優一
22歳ニート。
不登校で中退してそのままニート生活。
田無勲夫
美晴の夫で会社員。
3人兄弟の次男。虫になった息子を疎ましく思っている。
山崎いつ子
『みずたまの会』代表
バツイチ。息子は2年前に発症。
春町美弥子
『みずたまの会』会員
1番目の会員。子供が3人いる。
津森乃々香
美晴と同じ時期に会に入った若い女性。
娘の紗彩が犬になってしまう。
テーマや要素
「人間に向いてない」は以下のような要素が含まれています。
- ニートの子供
- 子育て
- 人間以外のものに異形化
- 親の期待
- 夫婦のすれ違い
- 団体心理
- 疎外感
このような要素が気になる方におススメの小説です。
色々と考えさせられる部分が多かったです。
自分ならどうするか
もし身内の誰かが突然虫に変身したら。
しかもその家族はニートだとしたら。
そして、国から人間としては死んだものとすると発表されたら。
恐らく誰もが自分ならどうするだろうと考えるのではないかと思います。
自分のお腹を痛めて産んだ子供の優一をどうしても美晴は見捨てることはできません。
でも国が死んだものとすると国が決めるまでは、全国各地で異形化した子供を殺してしまう事件が多発してしまったのです。
早く処分しようとする夫と、あくまで育てようとする美晴。夫婦の意見は分かれてしまいます。
「息子を見捨てて死なせたとあっちゃあ、近所からも白い目で見られるだろう。でも優一という人間は今日死んだ。死亡届も受理された。あの不気味な生き物をどうしようと誰も俺たちを責めないさ。だから不安の芽はすぐに摘んで、子どものいない夫婦として人生設計を新しく考え直した方がよっぽど建設的だと思わないか」
「人間に向いてない」より
美晴の夫である勲夫の意見です。
せめて言葉が通じる、治る見込みがあると確信できるなら勲夫ももちろんそんな事は思わないでしょう。
ただ優一はグロテスクで気持ちの悪い外見、言葉は通じない、食べるのはキャベツの葉っぱです。
優一を庇いつつも美晴ですら下記のように感じています。
ほとんど虫のような見た目で、口の中に備わっている舌は人間のものなのだ。頭で何を考えるよりも先に生理的嫌悪が勝ってしまう。気持ち悪い、と思ってしまうのだった。
「人間に向いてない」より
非情だとは思ってしまうのですが、実際治る見込みはない国も死んだものと認めた。
そうなれば私自身も勲夫と同じ考え方をしてしまう気がします。
『みずたまの会』の違和感
子どもが異形化してしまって悩む親の会です。
美晴は藁にもすがるような思いでこの会に入りました。
気持ちは当然わかります。
同じような悩みを抱える者同士で気持ちを分かち合いたい。
そして何かほんの少しでも解決策を見いだせないか。
美晴は「みずたまの会」で似た境遇の人々と交流することによって少なからず刺激を受けている。誰かの話をきくことで余所の家族の様子を知り、そして安心している。うちだけではないと。皆が同じように悩みを抱えながら生活しているのだと。
「人間に向いてない」より
これすごく分かります。
苦しい環境でも自分だけではないと思うだけで、何の解決にもなってなくても若干安心するんですよね。
しかし、美晴はこの会に徐々に疑問を持つようになります。
お互い話し合うシーンがあるのですが、本当の悩みを言いにくい雰囲気。
みな「特に変わりありません」が合言葉のように同じことを言います。
そして本当の悩みを打ち明けた者には塩対応なのに寄付は募るなど。
個人的にはこのみずたまの会が不気味でした。
周りの見解
「異形性変異症候群」ミュータント・シンドローム
これがこの病気の名前です。
この病気にかかるのは主に若者で引きこもりやニートばかり。
主に中型犬くらいの虫や生物に変化して、患者の多くは見捨てられる。
政府は人間としては死んだものと決定します。これは仕方ない気がします。
虫になった子供を美晴のように辛抱強く育てようとする人もいるだろうけど、絶望して殺してしまうパターンも当然あるでしょう。
言葉も通じない、外見もグロテスクな虫。
これは人殺しになるのか、ならないのか・・・。
ネットのニュース記事の一文に美晴は憤ります。
私はこの状況を客観的に鑑みて、これは「間引き」ではないかと考えている。高齢者人口の増加と少子化で若い働き手を必要としている社会の中、勤労の義務を果たさない者というのは、生ける廃棄物といっても過言ではない。もしくは、社会に棲むバグであると言ってもいい。そのような者たちが働かずに消費ばかりを繰り返し、社会の重要な根幹を執拗に齧り続けて害を為しているのだ。このままいけば国は沈んでしまうだろう。
「人間に向いてない」より
極端な考えではあるけれど、頷く部分もある。
社会的弱者の間引きとなってるが、ニートは本当に弱者なんだろうか。
ニートで生活できる時点でなかなかの強者では。
面倒見てくれる親がいる時点で勝ち組では。と思ってしまいます。
「人間に向いてない」を読んだ感想
勲夫が酷い夫のように書かれていて、実際に冷たい人間ではあるんですが、優一が小さいころに息子とキャッチボールをするのが夢だという場面があって・・・。
自分の思い通りに息子が成長しなかったというのは親のエゴではあるんですが、少し切ないシーンではありました。
ラストあたりで虫になった子供の気持ちが独白のような感じで10ページにわたり書かれていますが、意見は分かれそう。
自分は嫌な気分になりました。
私自身も親から愛されて育っていないのですが、あそこまでネガティブな自分に酔った考えはさすがにないです。
で、あなたはそこでずっと嘆いてるだけなの?
自分が死んだ後に泣いている家族を想像しているのですが、泣いてくれる家族がいるなら恵まれているじゃないですか。
甘え切った舐めた考えしてるなあと嫌悪感を感じるか、分かる分かると共感するのかどちらかではないかと思いました。
小説の帯に面白くて一気読みと書いてあり、確かに面白くて一気読みしました。
サクッと三行あらすじ(ネタバレ注意)
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ニートの子供たちが次々異形化する問題が社会現象に。
夫と対立しつつも美晴は最後まで虫になった優一を見捨てなかった。
子どもは人間に戻り、次は夫が異形化してしまう。
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