74歳、ひとり暮らしの桃子さん。
おらの今は、こわいものなし。
「おらおらでひとりいぐも」概要
第158回の芥川賞受賞作品。純文学
主人公は74歳でひとり暮らしの桃子さん。
東京オリンピックの年に上京して、夫と知り合い、一男一女を産み育てます。
しかし、夫は亡くなり、子供とは疎遠な状態。
孤独を感じつつも自由を謳歌している。「老い」とは「死」とは、そんな事を考えさせられる一冊
著者:若竹千佐子
岩手出身。
この作品で芥川賞と文藝賞をW受賞されました。
55歳から小説講座に通い始めて、8年かけて仕上げられた作品でデビュー作です。
小説を書くのは幼い頃からの夢だったとか。
東北弁で語られた小説で、著者の若竹さんいわく、耳で聞いても楽しいような小説にしたいとインタビューで言われています。
また、この小説はおばあさんによる脳内の討論会なんだとも語られました。
テーマや要素
以下のような要素が含まれています
- 連れ合いに先立たれた孤独
- 老いてひとりで暮らすという事
- 死に対する考え、捉え方
- 子供との距離
- 自由に生きるとは
また方言の良さも堪能でき、独り言の多さに共感しました
登場人物
日高桃子
74歳。オリンピックの年に上京してくる。
結婚して一男一女をもうけ育て上げるが、夫を亡くし、子供たちとは疎遠になって、一人暮らしをしている。
老犬を去年に亡くしている。少し考えすぎといわれる。
周造
桃子さんの旦那さん
上京してきてから知り合う。東北弁で意気投合。
直美
桃子さんの娘。夫・息子・娘の4人暮らし
車で20分のところに住んでいる。夫は中学校の美術教師。
子供に絵を習わせたいからと桃子さんに金の無心をする。
正司
桃子さんの息子。直美と二つ違いの兄。
隆(たかし)
桃子さんの孫息子で直美の子供。絵が上手い。
さやか
桃子さんの孫娘で直美の子供。小学校二年生
ばっちゃ
桃子さんの祖母。字の書き方や箸の持ち方を教えてくれる。和裁が得意。
トキちゃん
桃子さんが大衆割烹屋で働いていた時の朋輩。山形県出身。
桃子さんの考え方や行動で興味深かった箇所
ネズミがカサコソと動く音に安心する
冒頭部分ですね。
一人暮らしの桃子さんは静寂になれていると思うのですが時たま聞こえるネズミの音に怖がるのではなく、安心するそうです。
この冒頭部分だけでも引き込まれました。
孫の小さな反応に娘以上に気付く
娘の直美が気づかなかった孫の小さな反応に気付きます。
桃子さんの鋭い観察眼がうかがえます。
読んでいて娘の直美あまり好きじゃないのですが旦那さんに似たんでしょうか・・・。
夜行列車で数時間一緒だった人の事を思い出す
これすごく分かる。本当に何の接点もない話もしていない赤の他人なのにたまに思い出す人が居ます。
桃子さんも人生の節目節目にこの夜行列車で一緒だった人の事を思い出すそうです。
この部分でちょっと主人公に親近感がわきました。
自分より大事な子供などいない
この一文もすごい。
世間一般では、親は子供の為に自分を犠牲にして頑張るとかが当たり前までは行きませんがそういう傾向にあります。
母性神話の呪縛を解くことで子供は「親の為に頑張らなきゃ」という考えがなくなり、お互いの為だと言う。
愛の歌にケチをつける
多くの人が感動するような愛の歌にも桃子さんはケチを付けます。
その後、大事なのは愛よりも自由と自立だと心の中で叫びます。
私も明らさまな愛の歌は結構白けてしまう方ですが、ここまで来ると面白くなってきます。
思わず共感した一文
共感した一文を引用させていただきました。
他人には意味もなく無駄だと思えることでも夢中になれたとき人は本当に幸せなのだろうとも思った。
「おらおらでひとりいぐも」より
意味もない無駄な事たくさんしてきました。
恋愛においても趣味においても。
確かに書いてある通りその時は幸せだったのかもしれない。
私は歴史が好きなのですが私の好きな偉人たちは結構悲惨な亡くなり方をしていてそれを思うと悲しくなります。
しかし、もしかしたら夢中に生きれたという点では幸せだったのかもしれない。
死ぬことなど何も恐れないと普段が豪語している。だがその一歩手前の衰えが恐ろしい。自分で自分を扱えなくなるのが死ぬより怖い。
「おらおらでひとりいぐも」より
これはほとんどの人がそう思うんじゃないでしょうか。
死ぬことよりもその手前の衰えや痛みや苦しみなんかが非常に怖いです。
死んだ後の事は分からないので怖いとかの考えも及ばないですね。
死は恐れではなく解放なんだ
「おらおらでひとりいぐも」より
生きてたら色んな喜びもあるけど苦しみもある。
それら全てから解放されて無の状態になるのが死って事でしょうか。
それでも桃子さんは生きていたいのだろうと思いました。
「おらおらでひとりいぐも」を読んだ感想
とにかく普段は全く意識しない「老い」や「死」について意識してしまいました。
それとこの本を読むと死ぬことがそんなに怖くなくなってきたのと、「老い」もそんなに恐れるものでは無いのかもしれないという考えになりました。
冒頭から東北弁で少し読みにくさを感じていたのですが、リズムを付けて読みだしたらすいすい読めてきて、それが子気味よく感じて来たのは変な感じでした。
ところどころ桃子さんの死生観みたいなものも出てきて、死は解放だとか、亭主が先に行っているから怖くはないと言います。
一番面白かったのは、好奇心が旺盛な桃子さんは知らないことを分かるのが一番面白いのだと言います。
そして死というのは未知の領分なのだと。
この考え方は衝撃的でした。さすがは芥川賞。
すごくこの作者の方に興味を持ってしまいました。若竹千佐子さんのインタビュー記事も見つけたのでよろしければどうぞ。
最後は桃子さんは意地でも歩いてお墓参りをするのですが、この辺りは生きることへの力強さみたいなものを感じました。
映画「おらおらでひとりいぐも」
ひとり暮らしの桃子さん
おらの今は、こわいものなし
2020年に田中裕子さん主演で映画化されています。
今チェックしたら蒼井優さんが出ているんですね、結構好きな女優さんなので気になります。
予告編見た感じは少しユーモア多めのヒューマンドラマって感じなのかな。